Pfluger
 
・本実験では、カエルの下脚坐骨神経標本を使用し、電気刺激による神経の興奮機序を理解することを目標とする。
 
・閾と閾値
→動物生理学の基礎知識
・電気刺激による神経の興奮
電気刺激で静止時の膜に閾膜電位を越える脱分極(図11-2、138頁)が生じた場合、膜のNa+ channel の透過性が一過性に増大(図11-3、B、139頁)してインパルス放電が発生する。この急速に脱分極し、更に電位の逆転(オーバーシュート)を示す一連の現象を抽象的に興奮と呼ぶ。このインパルス放電の最大値はNa+の平衡電位(約+60 mV)に近い値となる。
一旦膜電位が極大に達した後、再分極相に移行するが、この相ではNa+不活性化によるNa+ channelの透過性減少とK+ channelの透過性増大が平行して起こっている(図11-3、B、139頁)。このK+ channelの透過性増大により、再分極相では細胞外の[K+]o濃度に依存した時間経過(図11-2 C):後脱分極電位(K+の蓄積によって[K+]oが上昇した場合、骨格筋線維など)あるいは後過分極電位([K+]oの蓄積が殆ど起こらない場合)を示す。
・電気緊張 electrotonus
閾下の通電により、陰極直下では脱分極が起こって興奮性が高まり、陽極直下では過分極が起こって興奮性が低下する。これらの興奮性変化の内、前者を陰極電気緊張、後者を陽極電気緊張と云う。
・極興奮の法則 law of polar excitation
通電時には陰極直下で脱分極(図11-1 Bb、外向き電流)が起こり、この大きさが閾値以上であれば興奮が生ずる。一方、通電時に陽極直下では過分極(図11-1 Bb、内向き電流)が起こる。
中等度以上の強さの通電時には陽極直下で過分極がおこると共にNa+不活性化が消去されて静止時よりNa+の透過性が高まり、電流遮断時にこの部分に閾膜電位を越える脱分極が発生して興奮が起こる。
この様に、通電時には陰極直下で膜の興奮が起こり、電流遮断(解放刺激)時には陽極直下で興奮が起こることを極興奮の法則という。
・興奮伝導の中断
上行流、強電流、閉鎖刺激の場合に、近位側の陰極直下で起こった興奮の伝導が陽極直下で遮断され、筋収縮が起こらない。これは、陽極直下の過分極が大きいと、近位側から伝導してきた興奮による局所電流(144頁)で発生する脱分極が閾膜電位を越えることが出来なくなり、興奮伝導がこの部分で遮断されるからである(設問2参照)。また、下行流、強電流、解放刺激の場合に攣縮が起こらないが(設問3参照)、これは、通電時に遠位側の陰極直下で生じた大きな脱分極によるNa+不活性化の影響がまだ残っている期間に近位側の陽極直下で発生した興奮が伝播してくるために興奮の伝導が中断されるからである。
・興奮伝導conduction of excitation、跳躍伝導 saltatory conduction
→動物生理学の基礎知識
 
設問
1.弱電流、解放刺激では攣縮が起こらない理由(弱電流刺激の場合には陽極におけるNa不活性化の解除が不十分で、解放時に陽極直下に閾値以下の脱分極しか起こらない為)
2.上行流、強電流、閉鎖刺激の時攣縮が起こらない理由(解答は上記)
3.下行流、強電流、解放刺激の時に攣縮が起こらない理由(解答は上記)
 
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