動物性生理学の基礎知識
 
・閾と閾値
興奮を引き起こさない範囲と興奮を引き起こす範囲との境を閾(イキ、しきい)thresholdと云い、この境に相当する刺激の強さを閾値threshold valueと云う。
・極大刺激
閾上の範囲で刺激強度を増して行くと、応答の大きさが増加し、やがて極大に達した後に一定となる。この極大応答を引き起こす刺激を極大刺激maximal stimulationといい、それ以上の強さの刺激を超極大刺激supra-maximal stimulationという。
・インパルス放電
興奮性膜に閾上刺激を加えると、インパルス放電impulse dischargeが発生する。これは、外向き電流刺激やEPSP等によって陰性に帯電している静止膜resting membraneに閾膜電位を越える脱分極が発生すると、一過性にNaチャネルの透過性が増大し、内向きのNa+電流が流れて膜はさらに脱分極し、ついには膜電位の逆転が起こるからである。この一過性の脱分極によってKチャネルの透過性が増大し、膜は急速に再分極して静止時の膜電位に戻る。
 この様に、インパルス放電の立ち上がり相ではNaチャンネルの透過性が増大し、立ち下がり相ではKチャンネルの透過性が増大していること(図11-3B)、および脱分極している最中にNaチャンネルの透過性が減少するのはNaの不活性化(141頁)機構の働きによることに注意。
・興奮の伝導
 軸索や筋線維のある部位が興奮してインパルス放電を発生すると、この部に局所電流が流れる。この局所電流はNaイオンの流入によるものであり、閾値の約5倍の値である。従って、この部の両側に隣接する非興奮状態にある膜は局所電流によって臨界値以上に脱分極して新たな興奮を発生する。この繰り返しによって、非興奮状態にある膜に新たな興奮が全か無の法則に従って発生しながら、両方向に向かって興奮が伝導して行く(両方向性伝導)。
 この局所電流は隣接して平行に走っている軸索や筋線維に対しては閾下の影響しか与えないので、興奮伝導は平行に走っている軸索や筋線維とは絶縁された形で行われる(絶縁性伝導)。また、興奮伝導は、非興奮部位に全か無の法則に従って新たな興奮を発生する形で行われるので、興奮の大きさはその経過中に減衰しない(不減衰伝導)。
・跳躍伝導
 有髄神経線維では、興奮時の局所電流は1~2 mm離れた隣接絞輪部を脱分極させてこの部に新たな興奮を引き起こす。この様に、ランヴィエの絞輪から絞輪へと跳び跳びに興奮が伝わることを跳躍伝導という。実際には、20~30個のランヴィエの絞輪がほぼ同時に興奮しているのでこの名称は誤解を招く恐れがあるが、跳躍伝導の名称は現在でも用いられている。
 
Return to Pfluger
Return