岩手の風土記シリーズ(9) 能傳房神社(のうでんぼうじんじゃ)
釜石道の宮守ICで降り、国道107号線を大船渡方面に向かい、鱒沢(ますざわ)峠を越えると遠野市の小友地区に入る。この小友という町は古くから南部藩と伊達藩の藩境の位置にあり、御番所が設置されていた。いわゆる我が母国ケセン国への入国審査のあった場所である。またこの町は古くは金山の街として栄え、内外から集まってきた人達のために商い市が開かれたのが今に繋がっている。この小友では「巌龍神社(がんりゅうじんじゃ)」と「産直ともちゃん」が有名である。ところで皆さんは能傳房(のうでんぼう)神社を知っていますか?この神社は生涯に一つだけ願いを叶えてくれるという、とてもありがたい神社だ。また、遠野市指定の遠野遺産にも指定されている。今回はこの能傳房神社にまつわる伝説と、近隣のおススメスポットなどを紹介しよう。
まずはお勧めスポットの「産直ともちゃん」である。ここの店内で販売されているパンは、地元のお母さんたちが自分で育てた小麦粉を使ったパンで、TVでも紹介されている有名店である。一番人気はサツマイモパンらしいが、筆者のお勧めはプチピーナッツバターである。ピーナッツバタークリームの中にピーナッツの欠片が入っていて、口の中で程よい刺激を与えてくれる。我が家ではここを通るたびに調達してくる好物である。そのほか季節ごとに様々な種類の野菜類が店頭に並ぶ、春は季節の山菜、夏は様々な種類のトウモロコシ、秋はキノコ類が待ち受けている。
さて本題にはいろう。「能傳房神社」は先ほどのケセン国との境目にある荷沢峠の頂上付近にひっそりとたたずんでいた。注意していないと通り過ぎてしま
【能傳房神社の謂れ】 【本殿までの参道】
うような場所である。駐車場も大きな看板もないので要注意である。本殿は入り口から100m程奥に入ったところにある。地元の人達によって整備されているようだが、一生に一度だけしか参拝者がいないためか、本当にひっそりとしていた。この能傳房神社は次のような言い伝えがある。昔ある人物が荷沢で採金事業を行ったが、それが思わしくなく困窮していた。その時出羽の修験僧である能傳坊(のうでんぼう)と賽覚坊(さいかくぼう)の兄弟法師が通りかかる。この兄弟法師に金の所在を法力で示してもらうよう懇願した。その結果法力により何とか金鉱脈を掘り当て、事業は大繁盛することになった。しかしその経営者は無情にもこの恩ある兄弟法師を、着の身着のままで追い出してしまった。恩人が邪魔者になったわけである。両法師はその無常を恨み、今度は呪詛によって大雨をもたらし金山は無論、人も馬も小屋も流失し、両法師もその場で倒れ埋もれてしまったという。その後里人が藪の根を掘り起こすと人骨が出て来た。古老に聞くと例の兄弟法師の骨であろうと言い、これを埋めて塚を築いた。これが今の能傳房神社である。本殿には能傳坊、隣の小祠には賽覚
【能傳房神社の本殿】 【賽覚坊が祀られている小祠】
坊が祀られている。この兄弟法師はいわゆる鉱山技師で、能傳坊は金鉱脈、賽覚坊は水銀鉱脈の発掘に長けていたようである。そして里人は呪詛で金山を崩壊するほど霊力が強いため、神様として祀ったものと推測する。日本では古来より、霊力が強く人に災いをもたらす可能性があるものを逆に神様として祀ることがよくあった。大黒天(元はインドの戦闘神)しかり、平将門(大手町の将門の首塚)しかりである。いずれにしても生涯ただ一度だけ、願いを叶えてくれる神社が岩手にあることが驚きであった。種々調べたが、何故生涯ただ一度だけなのかはよく分からなかったが、勝手に推察すると能傳坊はこの地でただ一度だけ願いを叶えて金鉱を探し出したが、結果自分の生涯をかけた探索になった事に由来しているのかもしれない。皆さんも一生に一度の願いを叶えてもらいませんか?筆者も今度正式にお願いにいこうかな・・・(私の願い事がすべて叶いますように・・・と)