岩手の風土記シリーズ(12)  さくら餅

 

月になり、岩手でも桜満開の便りが届くようになってきた。しかし新型コロナウィルスの影響で、イベント中止が相次いでいる。恒例の盛岡城址公園や、北上展勝地の「さくらまつり」も中止となり、6月開催予定の「チャグチャグ馬っこ」や8月の「盛岡さんさ踊り」も中止となってしまった。緊急事態宣言も出されていている中、今年は桜の花も遠くから眺め、思いを馳せることになりそうである。さて、この季節「花より団子・団子より杯」の諸兄もいるかと思う。今回はこの団子の話をしよう。盛岡近郊では、「団子」や「お茶餅」等の餅菓子を総じて「べんじぇもの」と呼んでいる。かつて明治橋と南大橋の間に船着き場があり、江戸時代から明治時代にかけて北上川を上がって物資を運んだ船を「弁財船」と呼んでいた。この「弁財船」によって上方等から運ばれてきた華やかな物品は「弁財物(べんざいもの)」とよばれ、盛岡弁になまって「べんじぇもの」となり餅菓子類には呼び名がそのまま今でも残っているのである。この「べんじぇもの」の中に「さくら餅」も入っている。ところで「さくら餅」というと皆さんは下のどちらを想像しますか?

筆者は、左側の柏餅状のものが「さくら餅」で、右側のものは「道明寺」で全く別なものと思っていた。ところが調べてみるとどちらも「さくら餅」であった。ではその違いは何かというと、写真左側のものは関東風で「長明寺」と言われ、右側のものは関西風で「道明寺」と言われている。関東風のさくら餅は、なめらかな餅にあんこが挟まっているのが特徴で、形状は筒型で、薄いピンク色をしている。小麦粉を主原料としたクレープのような生地のものである。関東風のさくら餅は、発祥の地に由来して「長命寺」と呼ばれる。関東では長命寺という名称は使用されないが、関西風さくら餅と区別するために、関東風さくら餅は「長命寺」と表記する。長命寺が生まれたのは、江戸時代の1717(享保2)年、現在の東京都墨田区向島にある長命寺の門前に、山本新六が菓子店「山本屋」を開き、桜餅を売り始めたのが始まりだと言われている。山本はもともと長命寺の門番を務めており、隅田川の桜並木から落ちる葉っぱを掃除することに苦労していた。そこで桜の葉っぱを醤油樽で塩漬けにして、餅に巻くことを思いつき、当初は長命寺に墓参りに訪れる人に振る舞う菓子として作られていたが、その後江戸の人々の間で爆発的なヒットとなった。一方、関西風のさくら餅は、ツブツブとした見た目が特徴的だ。これは、原材料に道明寺粉というもち米を蒸して乾燥させた粉を使用しているからだ。長命寺と同じくピンク色だが、長命寺よりも鮮やかなピンク色をしていることが多い。関西風のさくら餅は、道明寺粉から作られていることから「道明寺」と呼ばれ、もち米の食感に似たねばり感があり、手のひらサイズの丸いフォルムが特徴だ。この「道明寺」は、江戸で人気を博した「長命寺」の人気にあやかり、江戸時代後期の天保年間(1830年〜1844)に誕生したようだ。「長命寺」と「道明寺」の違いは、道明寺粉と小麦粉という異なる原材料による食感の違いが大きいが、他にも葉っぱの塩分濃度は関東の方が濃い傾向がある。そして、「長命寺」の方があんこの量が多いのも特徴だ。これは、濃い味を好む関東と薄味が好まれる関西の違いと言えそうだ。関西の方が東京で桜餅を食べると、葉っぱのしょっぱさに驚かれることが多いようだ。また、さくら餅に欠かせないものが、塩漬けにした桜の葉っぱである。この桜の葉っぱには、香りづけやもちの乾燥を防ぐ効果があり、桜餅の葉っぱは食べる方と食べない方に分かれるが、桜餅の葉っぱを食べるかどうかについて明確な決まりはなく、個人の自由とされている。ただ、菓子店によっては、葉っぱを食べないことを勧めている店もあり、購入する菓子店で確認するのもおすすめだ。道明寺粉の粘りを生かした道明寺は、葉にくっつきやすいため、手がべたつかないというマナー的な観点と道明寺の葉っぱをはがすと、もちが葉っぱにくっついて可食部が減るというデメリットもあるにで、葉っぱも一緒に食べた方がよいようである。ちなみに大阪人に関東風の桜もち「長命寺」をみせると、「なんやこれ、クレープやん!」とかえってくるらしい。盛岡ではどうだろか?老舗の和菓子屋である材木町の「山善」と南大通の「山喜屋」で調べてみたが、「長命寺」も「道明寺」も両方販売していた。「べんじぇもの」として上方から来た「道明寺」が新しいもの好きの盛岡市民に受け入れられた事は容易に想像がつく。もっとも今ではコンビニでも桜もちとして両方が売っている時代なので、好みのものを花より団子としてもらいたい。ちなみに筆者は「道明寺」派である。最後に今年の桜は酒宴の花としてみることが出来そうもないので、筆者が今までに撮った満開の桜をいくつか掲載するので、花見の雰囲気を少しでも味わってもらえればと思う。しばらくは居酒屋「じたく」またはスナック「Stay Home」での一人酒が続きそうだ。

   【秋田 角館の桜】                【宮城 白石城と桜】

 

 【岩手 盛岡城址公園の桜】             【青森 弘前城と桜】

 

 

   【秋田 大潟村 桜と菜の花】        【東京 呑川沿いの桜】

    【東京 谷中の枝垂れ桜】

   【東京 さくら坂の桜】            【岩手 北上展勝地】

                          高校生の花魁道中と桜

以上